サンフランシスコでのカクテル

人間らしく、大人に

ドットコム時代に、一夜のうちに大金を手にした若者で溢れ、一世を風靡したクラブやバーが、ここにきて大人の雰囲気をもつ個性的で主張のある静かな空間へと生まれかわってきている。

1998年頃に始まって、サウスマーケット地区にオフィスが乱立し、マルチメディアの発信地モータイメディア・ガルチとしてサンフランシスコが繁栄したとき、有り余るほどのお金を手にした若者たちが、高価なマンションや車を購入し、煌びやかに飾られた大量生産的なバーやクラブに夜な夜な通いつめた。
そこは、流れる音楽が建物中に反響するなか、様々なアルコールをあおって汗を出して踊りあかす、同じような境遇の人たちで溢れかえっていた。賑やかな音楽にかき消されるために喉をがらがらにして言葉をつなぎ合せ、そしてその乾いた喉を潤すためにアルコールをあおった。勢いがあって、お金に余裕のある人たちがずっしりとしたふところに満足していたころだ。

ところが、2001年に入ってドットコム時代があっけなく終わりを告げ、暖かかったはずのふところが、少しだけ(あるいは、うーんと)寒くなってくるとわけもわからなく飲んだり踊ってばかりもいられなくなる。
もっと人間らしいふれ合いと精神的な満足感がほしくなってくる。その気持ちがこの数年の間に少しずつ膨れ上がり暖められ、個性的で有意義な時間をもつための場所と機会を求めるようになり、それにあわせて市内にあるクラブやバーが変ってきたようだ。

親しい友達や大切な人と、好きな飲み物をゆっくりと味わいながら、静かに語らう場所を求めるようになってきている。誰かと心を開いて話し合ったり、会話をはずませるほうがずっと楽しく思えるようになってきたのだ。誰かとともに深く過ごす時間のほうが、「もの」をもっていることよりも大切だから。

景気は依然低迷しているが、少しずつその脱出感がうかがわれるようになってきた。このまま景気の先行きが上向き続けても、昔の物欲主義的ドットコム時代のあの姿には決して戻らないような気がする。
この景気低迷期に余儀なくされた条件や変化により経験したライフスタイルによって、社会とのかかわりや仕事のあり方、家族をはじめ人とのつながりなど改めて再認識し、学んだから。この沈滞期を機に人々がぐっと人間らしく、大人になったのかもしれない。

友達や素適な彼、彼女と、この一年を振り返りどんなことがあったのか、じっくりと語り合い、そして、カクテルを手に、年の終わりの締めくくりと、これからやってくる年が素晴らしい年になることを祈って、乾杯といきたい。

(2005/12)
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