サンフランシスコのヘチヘチ水源地

公金でのミネラルウオーター購入禁止

20年も前にはペットボトルに入った水をお金を出して買うというのには抵抗があったような気がする。
水の質が悪いヨーロッパなどにいればこそその必要性がでてきてもおかしくないが、質のよい水の豊富な国に生まれたものにとっては抵抗があって不思議ではない。ところが、そのトレンドがどんどん世界中にひろまって、いまでは何の抵抗もなく、しかも幅広いセレクションのなかから選ぶのが自然になってきている。

サンフランシスコ市内へ供給される水は、車で4時間ほどまっすぐ東に走ったあたりにあるヘチヘチ貯水池(Hetch Hetchy reservoir)からやってくる。ネバダ山脈の西側斜面にあたり標高648 mから 3,997 mの幅のなかにあるヨセミテ国立公園のなかに位置する。

1906年、サンフランシスコを襲ったマグニチュード7.9の大地震のために発生した大火災は3,000人以上の死亡者をだし、カリフォルニア州の歴史上、天災による最悪の惨事をうんだ。この天災を機会に水の必要性がとくにとわれ、水の供給プロジェクトの話が活性化した。政府関連や環境保護団体との交渉など多くの課題を乗り越えたのち、1923年にやっと完成したヘチヘチダムは、現在サンフランシスコをはじめ、サンマテオ、アラミダなどベイエリア近隣郡に水を供給している。

このヘチヘチ貯水池は雄大なヨセミテ国立公園の一部だけあって、周辺の景色はなかなか見ごたえがある。貯水池を囲んで聳え立つ険しい岩壁から流れ落ちる何本かの滝が色を添えている。雪解け時期の春、滝から流れ落ちる水は豊富だ。そのあと全く雨の降らない時期を向かえ、夏から秋に向かって滝の水量が減っていく。
夏ごろから姿を消す滝もある。空に高く上った太陽と青い空、そして貯水池の周りを囲む岩壁、そこにしがみつくようにしてところどころに生えている木々、それらのコントラストを貯水池の水表面に深く美しく映し出す。

それでも人工的に作られたダムは景観を崩すとして環境保護団体はこのダムを無くしてもとの渓谷にもどそうと、今でも現地で集会を開いたりしている。しかし、このダムから供給される豊富な水のことを思えば、そう簡単にダムの利用を打ち切る決定はできそうにない。

ところで、過去にあった慣例を廃して、市のお金を使って市職員用にミネラルウオーターを買うことを禁じたのは現在の市長が就任してまもなくのこと。ネバダ山脈からの純粋な雪解け水をためた貯水池。その水道水の味は抜群なのだからという理由とともに、多くの職員を抱え、その支出はばかにならないというのが根底にあったように思う。

ペットボトルに入った水もいいけれど、余分なお金をつかうことなく、おいしい水が水道からでてくるのだから、その水を飲みましょうということだ。ヘチヘチ貯水池からの恩恵を無駄にしてはいけない。
今ある資源を十分に活用することも、この不景気を乗り切るひとつの手段とも思える。

(2010/09)
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