| 陳言、字は無択、南宗處州青田(今の浙江省青田)鶴 |
| 渓の人。詳しい生い立ちは分かっていませんが、臨床手 |
| 腕は抜群で、不治の病者の予後も正確に告げ、的中せぬ |
| ことはなかったといいます。脈診に長じ、「医事の要は |
| 三因以外にはなく、病因を弁ずる基本は脈息にある」と |
| 主張しました。そして著したのが、『三因極一病証方 |
| 論』(俗に『三因方』)です。 |
| この書名の由来は「分別三因、帰於一治」。すなわ |
| ち、三つの病因をはっきりと掌握することができたら、 |
| 治療法はおのずと決まる、というほどの意味です。それ |
| まで医者の必要な知識は、五科(脈病証治因)とされて |
| ましたが、最後の因(病因)を重視して、内因・外因・ |
| 不内外因のの三つに分類し、合計七事としました。この |
| 考え方は、『内経』『金匱要略』『諸病源候論』など、 |
| これまでのこのシリーズで紹介してきた古典を基礎にし |
| て、陳言が打ち出したものです。 |
| 自然界の六気(風暑湿燥寒火)は、異変が生じると人 |
| 体を犯す六渓となり、経絡に流れ込んで臓腑に触れる。 |
| 今でいう伝染病がその代表ですが、これが外因。一方、 |
| 人の常性である七情(怒喜憂思悲恐驚)が乱れると、臓 |
| 腑から憂いが生じ外の肢体に現れる。これが内因。今で |
| いうストレスから発する様々な病気といえるでしょう |
| か。内因でも外因でもない暴飲暴食、外傷、中毒などを |
| 不内外因といいました。 |
| この三因を患者さんの脈でピタリと当てるというわけ |
| です。例えば、同じ咳をしている患者さんでも、この咳 |
| は内因?外因?不内外因?で、治療方法や方剤が異なっ |
| てくるというわけです。 |
| 私が漢方医学に入門した頃、ある先生に脈診を習いま |
| したが、患者さんの脈をみた瞬間にこの内・外・不内外 |
| を即座に言わないと機嫌が悪く、とんでもない世界に |
| 入ったものだと閉口したことを思い出します。 |
| 『三因方』にはそれ以前の医書に登場していない方剤 |
| も多く、すぐ後に登場した厳用和の『済生方』に大きな |
| 影響を与えました。 |
| 日本にも早く伝わったらしく、この『三因方』や『済 |
| 生方』は、室町時代南禅寺の僧有隣の著した『福田方』 |
| (ふくでんほう)に沢山引用されています。 |