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栄養素の相互のバランスには、前回(栄養のバランスとは(1)栄養素の出入りのバランス)で述べた三大熱量素(炭水化物・タンパク質・脂質)の相互のバランス以外についてもそれがあります。例えば、タンパク質中のアミノ酸バランス、脂質中の脂肪酸バランス、ミネラルバランスなどいろいろあります。これらの栄養素の相互のバランスは、最近の栄養学の進歩によって明らかとなり、我が国ににおける国民の栄養所要量を決める際に利用されています。そこで、今回はこれらの個々の栄養素の相互のバランスについて述べることにします。

1.タンパク質

食事タンパク質の栄養価は、その中に含まれる必須アミノ酸の種類とその含有量とのバランスによって決まります。現在市販されている「食品成分表」(科学技術庁資源調査会編)には、食品アミノ酸組成表が載っており、その中にアミノ酸価という数値が出ていますが、この値が100であれば栄養価満点ということです。植物性タンパク質と動物性タンパク質のアミノ酸価を比較してみますと、植物性タンパク質はリジン、含硫アミノ酸、スレオニンなどの必須アミノ酸が不足していますので、100以下のものが多いようです。これに対して、動物性タンパク質は鳥獣肉でも魚肉でも100を示すものが多いのが特徴です。

我が国が世界の長寿国のトップ入りをした背景には、動物性タンパク質の摂取量が急激に増加してきたいきさつがありました。しかしながら、欧米諸国のように動物性タンパク質への依存度があまり高くなることは、コスト面でも、また動物性脂肪の過剰摂取につながりやすいことからも不利であり、今日の標準的水準である40~50%の動タン比(摂取タンパク質中に占める動物性タンパク質比率のこと)を保つことが適正比率と考えられています。

2.脂質

次に脂質の成分中の脂肪酸バランスについて述べます。動物、魚、植物等の脂質にはそれぞれやや異なった種類の脂肪酸が含まれております。脂肪酸には飽和脂肪酸(S)、1価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)があります。
これらの脂肪酸は食品中に含まれる割合が異なっており、大ざっぱにいいますと、動物脂肪は飽和脂肪酸が、魚油は多価不飽和脂肪酸が、植物油は1価不飽和脂肪酸がそれぞれ多く含まれています。

これらの脂肪酸類は、もちろんエネルギーまたは組織脂肪源として重要ですが、そのほかに体の特別な生理機能をもったものがあります。それらは、タンパク質の必須アミノ酸と同じように、必須脂肪酸といわれるものです。元来、脂質は食事としてとらなくても、糖質から体内で合成されますが、必須脂肪酸だけは合成することができません。したがって、脂質は食品からどうしてもとらなければなりません。

必須脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸の一種で、植物油脂に多く含まれるリノール酸やリノレン酸というものです。これらが欠乏すると、皮膚炎やコレステロール代謝障害を起こします。また、魚油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸の中には、抗血栓作用・抗炎症作用のあるエイコサペンタエン酸(EPA)や脳内知的作用のあるドコサヘキサエン酸(DHA)があります。

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動物:魚:植物の割合を4:1:5に

以上の事実をふまえて、由来の脂質の摂取割合は4:1:5が望ましいとされております。さらに、高コレステロール血症や血栓症の予防には、脂肪酸レベルを、S:M:P=1:1.5:1に保つのがよいとされております。

3.ミネラル

最後にミネラルバランスについて述べます。ミネラルは「無機質」ともいわれ、生体には比較的多量に含まれるナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)などのほか、少量に含まれる鉄、銅、亜鉛、ヨウ素などがあります。これらのミネラルのあるものは体構成成分となっているほか、それぞれ特有の生理機能に関与しています。

食品中で最もありふれたナトリウムとカリウムについてみてみますと、生体内ではカリウムの方がナトリウムより若干多く存在しますが、ナトリウムに対するカリウムの比率が低すぎると高血圧症になりやすく、その反対に高すぎると心拍異常が起こるとされています。そこで、日本人の栄養所要量では、食塩の目標摂取量を1日10g(Naとして4g)以下とした上で、Na:K=1:1~2となるように、カリウムの目標摂取量を1日2~4gとしてあります。日本人にとって、食塩の摂取量を減らすことはむずかしいが、カリウムは野菜や果物に豊富に含まれているので、摂取量を増やすことはそれほどむずかしいことではありません。

次にカルシウム、マグネシウム、リンについてみてみます。これら のミネラルは大部分が骨や歯の硬い組織の構成成分となっていますが、微量ながら血液や体液の成分として重要なはたらきをしています。カルシウムは不足すると、神経の興奮作用を高めます。マグネシウムは欠乏すると、神経・精神疾患や心疾患などをきたすことが知られています。

そこでこれらの疾患の予防のため、摂取重量比をCa:Mg=1:2とするのが適正とされております。リンは生体中でカルシウム代謝と関係が深く、一定量の摂取は必要とされているが、日本人の場合、食品添加物として各種リン酸塩が加工食品に広く用いられている関係で、摂取不足よりはむしろ過多が問題となっています。

リン摂取量が1日2gを越えると、カルシウムバランスがくずれることが指摘されており、したがってリンの目標摂取量はCa:P=1:1が望ましいが、食生活の現状からみて1日1.3g以下とされています。一般に、加工食品はNaやPの含有量が多いので、日常の食生活で加工食品にあまり頼ることは考えなければなりません。

なお、参考までに食品中のミネラル量を表に掲げました。

食エッセンス記事

(1999年1月)
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