79.スイカ(西瓜・水瓜・西瓜糖)—渇をとめ、小水を利する—

水瓜ではなく西瓜

50年前、千葉の海岸で遊んだときのことを思い出します。民宿のおばさんが朝、スイカを荒縄で上手にくくり、井戸におろすのです。一日海で遊んでペットボトルなどない時分、疲れきって、渇ききった子どもに冷えたスイカがどんなに美味しかったか。井戸水を頭からざぶざぶかけられて、海水を洗い落とすのももどかしく、海水パンツが半分脱げかかったまま、おばさんがざくざく切ってくれたスイカにむしゃぶりつきます。縁側にちょこんと腰掛けて、足をぶらぶらしながら。種を食べると盲腸炎になると真面目に言われてましたから、ペッペッと吐き出しながら。でもそうしていると冷たさが充分味わえないから、けっきょくガブッと種ごと。冷蔵庫がなくて、今のように甘い品種はなく当たり外れの多かったあの時分、どうしてあんなに冷たく美味しかったかのか、夢のようです。隣りのトトロ的なこうした思い出はどうして書いていて涙がでてくるのでしょうか。

それはスイカがほとんど水分だからだ、という情けない落ちで現実にもどります。確かに英語では、water–melon ですから、直訳すれば水瓜ですが、これは間違い。中国で西域からもたらされた瓜だから西瓜、それがそのまま日本語になった西瓜が正しい。

スイカは紀元前四千年にはアフリカで栽培され、種を食用にしていたといわれます。果肉を食べるようになったのは地中海方面に広まってから。ヨーロッパや中国に伝わったのは大分後、紀元後10世紀くらい。日本には、16~17世紀のころ。諸説ありますが、一説にはポルトガルの宣教師が、カボチャ(南蛮・南瓜)とともに西瓜の種を伝えたと。当時のスイカはラグビーボールのような冬瓜型。色も黒に近い深緑で今のような模様はなかった。味もけっして甘くなく、甘い品種は明治に入ってからアメリカからもたらされ、以降一般にひろまったといわれます。
薬効は「渇をとめ、暑を解し、酒を解し、小水を利する」といわれる。実感された方も多いでしょう。漢方薬には、皮を用いた「西瓜翠衣」が清暑益気湯という先ほどの薬効そのままの名前の処方に組み込まれています。果汁を煮詰めたものは「西瓜糖」と呼ばれ利尿作用がありますから、腎炎などの浮腫に使われます。

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