8.血圧が高い・低い。一人歩きしてしまう「高血圧に対する恐怖」

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これまで、「漢方的手段と現代医学的手段のどちらを選ぶのか」というタイトルで述べてきました。これからは少し角度をかえていろいろな病気について考え方をお話ししてゆきます。
当院がスタートした時から待合室においてある小さなパンフレットの太字で書いてある病名や症状にいて、ひとつづつエピソードを加えながら解説していきましょう。

「血圧が高い・低い」について。

抗生物質の世界中の総生産量の約半分を人口は世界の50分の1に過ぎない日本人が服用しているという統計が出ました。今回述べるのは血圧についてですから、「血圧のくすり」つまり「降圧剤」が問題となりますが、これも世界の総生産の約半分を日本人が服用しているだろうと私は推測しています。

血圧のことで相談に来られた患者さんに、私どもが、「確かに中等度に高いといえます。厚生省が出している基準からいえば、境界領域か、それより少し上といえましょう」
(先生1)「だから薬を服用しないで体重コントロールや運動で様子を見ましょう」
(先生2)「だから降圧剤を(少量)服用しなさい」
と言うとします。
皆さんはどちらの先生をえらばれますか?

あらためてこう聞かれれば1と答える方が多いでしょう。タテマエは1ですよね。確かに。
でも、血圧が高いと定期検診でいわれて、わざわざ病院へ行ったのに1の先生はなにもしてくれない。
2の先生の方へ行けば薬をくれる。2の方が行った甲斐がある、というのが人情でもあるし、本音じゃないですか?

1の先生は何もしてくれないどころか、実は2の先生よりもはるかに大事で、貴方の為になる情報を 貴方にくれているのですが、残念ながら情報は薬のように目に見えません。
目に見えないもの(情報・考え方・ひいては文化など)に価値があると認め、お金や時間を費やす度量と余裕がまだまだたりないし、一方、私ども医療側からお金のことを言えば、20分かけて患者さんといろいろなお話をし、お互い納得して薬を出さないという診察をつづけると、あっという間に病院側は倒産してしまいます。そのように保険制度もまた、目に見えないものにはお金を使わず、薬代や医療機械の代金なら出すのです。

官製病気

患者さん側の「薬が欲しい」と医療側の「投薬をしたい」という、いわば医学外の要因で、日本は世界一の薬天国になっているのです。
いつ頃から皆さんが血圧血圧というようになったと思いますか?血圧が貴方の人生や寿命を決定してしまうとでもいいたげに。血圧血圧と気にするようになったのはいつからですか?貴方のご両親の世代、祖父母の世代にそんなことはありましたか?

つい10年くらい前までは、血圧は年令プラス100とかいって年相応の血圧があっていいということでした。今や何が何でも理想値でないと不安な貴方。いつからそんなことになったのですか?

今のような血圧計が使われるようになってからわずか50年くらい、高血圧が動脈硬化の促進因子のひとつとして健康管理の指標とされたのはこの30年くらいにすぎません。
高血圧治療は明日死んでしまうという病気でない、いわば統計上の確率を下げるための治療ですから、この程度の年月で結論を出すのはまだ無理があります。

血圧の高い人はそうでない人に比べ、早い時期に脳血管や心臓の血管がつまったり破裂したりしやすい、というデータが一度出てしまうと、それが常識的な判断を飛びこえて「高血圧に対する恐怖」として一人歩きし始めます。

ここには医学上の研究にのった形で、予防医学という名の「官製病気」がいくらでも増えていく典型的な例があります。
ある医学誌に一般の医師からこんな質問が寄せられています。

「65歳の男性で、早朝170-90、夕方140-90くらいの血圧の患者に(他の検査所見が特にない場合)降圧剤を投与すべきか?」
これに対し「降圧剤の投与は不要。減食、減塩、運動療法等の一般療法が望ましい」と答えているのは、循環器の専門家の医師です。

皆さんはどう思われますか?まず気づいてほしいのは質問者が患者さんではなく医師であることです。
患者さんからみれば同じ専門家ですが、迷うことはあるのです。何故なら官製の病気は誰が見ても一週間が命だという人を見ているわけではありませんから、専門家の医師の間でも対処の仕方について迷いや意見の相違はいくらでもあるからです。あくまでも相対的なものだということを忘れずに。この質問に対する答えで、降圧剤を投与すべきという循環器の専門家も必ずいます。

そうすると、このような軽症高血圧というべき人(高血圧といわれるのは、ほとんどがこういう人々です)は、出会う先生によって降圧剤を服用するかどうか決まってしまいます。何かへんだな。

脳卒中の発作に見舞われた患者さんが病院に運ばれたら血圧が200あったという話をしました。そしてその200というのは原因ではなく結果ですよと。

こんなに大袈裟な例でなく、日常よくある「頭が割れるように痛かったから病院へ行ったら血圧が200あった」
「めまいがするので、あわてて病院へ行ったら200あった」
というのも、まず間違いなく、その血圧は結果であって原因ではありません。

患者「頭が痛い」----医者「血圧のせいだ」
患者「めまいがする」----医者「血圧のせいだ」
患者「耳鳴りがする。肩がこる。目の奥が痛い」----医者「血圧のせいだ」
はては患者「ちょっと調子が悪い」----医者「血圧のせいだ」

どうしてこう何もかも血圧のせいにされたかといえば、これらの病状は一口で皆さんに説明し、納得してもらえる原因が簡単には見あたらない。(勿論ほんとにおかしいと医者が判断したときは精密検査をしますが、それでも例えば脳腫瘍などが見つかることは例外的なことですから、ほとんどの場合)血圧で説明するのが一番簡単で、しかも数字で表されるから、説明しやすいのです。

しかしこれらの症状で心配してかけつける方の血圧は、それなりに上がっているのは前述のとおり。ここまで考えれば、降圧剤を服用することが本当に必要な患者さんは、現在日常的に降圧剤を服用している(させられている)方の約10人に1人くらいという私の推定は、多分でたらめではありません。むしろ降圧剤の消費量が10分の1になれば、皆さんの健康感は大幅にアップするでしょう。

いや原因とか結果とかでなく、血圧が高いこと自体が問題なのだ、という専門家もいます。皆さんの中にはお家ではかると血圧が低いのに、病医院ではかると高くなる人がいるでしょう。病院高血圧とか白衣高血圧と言って、私どもが本来の高血圧と見分けなければならない患者さんということになっています。

それで、在宅の血圧計が叫ばれ、最近では24時間血圧連続測定もよく行われます。
私は想像します。もし血圧が高いこと自体が動脈硬化や心臓肥大を促進させるとしたら・・・。
24時間血圧計を皆つけましょう。そして例えば上が160、下が90を越えたら、ピッピッと鳴るようにしましょう。
深い感動を覚えるお芝居。いいところへくると、ピッピッ。9回裏二死満塁、バッター落合。ピッピッ。
初恋の人の手を握るなんて、ドキドキは、ピッピッの連続。多分ほとんどの運動もピッピッ。
血圧を上げない為に、精神も肉体も亢揚させず、感動のない静かな人生を歩みましょう。腕時計のように誰もが24時間血圧計をつけている生活。血圧管理というコトバが、冗談ですまされるよう祈るばかりです。

塩味・砂糖味

ある医学雑誌に「食塩摂取の量と血圧上昇には直接の関係はない」という調査結果がでました。
これを見て「どうだ」と思った人は少なくないはずです。もう80歳になろうというのに現役で会社を経営されているバリバリの方を存じ上げていますが、彼は若き日に、牛が濃い食塩水をゴクゴクうまうに飲んでいるのを見て、「私と同じだ。私の塩分好きも自分の生理にあっているのだ」と確信を持ったと述懐されています。そして今でも毎日毎日、人の数倍の塩分を取りつづけています。

塩分が血圧上昇の原因とみなされたのは、日本の東北地方でどうして脳出血で40代~50代の方が多く死ぬか?それは漬物やみそ汁の塩分が多すぎるからだ。一方ある中南米の国ではバナナのようなものばかり食べて塩分を取らない。その国では脳血管障害はきわめて少ない。といった疫学調査が出発点となっています。

最近、秋田や青森でもそうした死亡が減ってきたのは、塩分摂取を減らしたからでしょうか?むしろ蛋白質や脂肪を多く食べられるようになった、食生活が豊かになったから、脳血管障害が減ったのだ、という方が正しい。

脂肪(コレステロール)は皆さん目の敵にしますが、それは食生活が豊かすぎて、多すぎればの話で、少なかったら血管が丈夫にならないのだから、ハナシにならないのです。漬物とみそ汁を塩味で濃くしてメシだけを食っていた、お魚やお肉は滅多に食えなかったから、寿命が短かったのです。

冒頭に述べた最近の調査結果は、「他の食品をまんべんなくきちんと食べていれば、塩分の取り方の多少は血圧上昇とは関係ない」ということで、単純な塩分悪者論はおかしかったかも知れないことを示唆しています。
レストランで食事をすると、5~6年前までは、食塩控え目がいきわたり、せっかくの高級フランス料理も味気ないなぁと思ったことがよくありました。最近は再び味つけがくっきりしてきたような印象を持ちます。

これは塩ではなくお菓子の話ですが、お菓子づくりの方と話をしていましたら、数年前の甘さ控え目の頃から、再び最近はお菓子が甘くなりつつあることを認めていました。どうも流行はあるようです。

あとで喉が渇くほど塩からかったり、甘かったりは困りますが、そうでなければ、味のやたら薄いおかずがよいとは限りません。せっかく正油・砂糖控え目の煮物を食べても、砂糖のかたまりのようなコーラを1本飲んじゃえば帳消しもいいとこですよ。

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