ペンキ塗り中

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ミルクの香りの香水

香りは、その時代の女性像を映す鏡のようでもある。ここ数年、知的で自然体の女性がもてはやされ、ライトで洗練された香りが主流だった。しかし、世紀末を目前にひかえたこの秋、これまでとは全く違う、甘く濃厚な香りが相次いで登場し、パリで話題になっている。

これらの香水に共通するのは、ほんのりミルクの香りがすること。赤ちゃんを連想させる甘ったるい匂いではなく、寒い夜に味わいたい温かいミルク。しかも、花やスパイスの香りがプラスされ、思わず、”おいしそう”とつぶやきたくなるような香りなのだ。

クリスチャン・ディオールのプワゾン第3弾、ヒプノティック・プワゾンは、禁断の果実に似たガーネット・レッドの容器に入って登場。ビターアーモンド、キャラウェイ、サンバック・ジャスミン、モス、ジャカランダ・ウッド、バニラ、ムスクが融合したエロティックな香りで、自分の中の魔性を呼び覚ます。
イッセイ・ミヤケのフー・ディッセイも、同じような赤く丸い容器。火(フー)がテーマだけあり、熱烈な女性の香り。アンバーにブルガリアのバラと日本のアイリス、さらにグアヤック樹の香りを加えてある。丸みを帯びた半透明の雲のような容器がかわいらしいキャシャレルのノアは、ムスク、西洋シャクヤク、ベンゾイン樹の香りがミックスした印象的な香水。
そして、レ・サロン・デゥ・パレロワイヤルからは、トルコのお菓子をそのまま香りにしたラハト・ルクーム。アーモンド、チェリー、トルコローズ、ムスク、バニラの食べたくなるような香りだ。

”おいしそうな女”という表現は、フランス語にもある。もちろん、男性が女性を値踏みして使う言葉のため、眉をひそめる人も多いのは事実。しかし、女性たちは、これを逆手に取り始めたかのようだ。”おいしい女”であることをアピールし、男を虜にする情熱的な女性。世紀末の女性が待ち望んでいたのは、甘美な香りだったようだ。

(1998/11/1)
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