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「人生50年」の時代から長寿国へ

この20世紀に、日本人の成し遂げたミラクルが2つあります。その一つは、日本は現在世界の主要国の中でもトップの長寿国になったことであります。しかし、今から50年ほど前まではどうでしたでしょうか。全く想像もできないくらいの短命国で、よく「人生50年」といわれていた時代でした。それが第二次世界大戦後あたりから、平均寿命が急激に伸び続け、ついには世界の長寿国スウェーデンをも追い越すほどとなりました。一体これはどうしたことなのでしょうか。

実は、その背景には食生活の劇的向上というシナリオがあったのです。とくに動物性食品の摂取量の増加が著しいのです。その中には、肉、卵、乳類などが含まれ、また油脂類や果実類の増加も著しいことがわかります。しかし、米・麦などの穀類は逆に減少しています。敗戦直後のあの食糧難時代によく食べられた大麦やいも類は、いったん急激に減ったようですが、いもは見直されてまた増加しています。

動物性食品の摂取によって、タンパク質中の動物性タンパク質の占める割合が増え、逆に植物性タンパク質の占める割合は穀類の摂取量の減少に伴って減ったと考えられます。その結果、タンパク質を中心に、脂質、ビタミン、ミネラル等の栄養状態が著しく改善されました。このような食生活の改善に伴って、成長期における体位向上はもとより、乳幼児の死亡率の低下、感染症に対する抵抗性の増大など、日本人の健康状態も著しく増進したため、これが平均寿命の伸びに大いに貢献したものと考えられています。

高度経済成長のエネルギー

もう一つのミラクルは、経済大国アメリカに次いで世界第2位の経済成長を成し遂げたことです。戦後のあの混乱と不況を克服し、経済成長ブームに乗り、やがて高度経済成長期へ突入したのは、今から30年位前でした。当時は、動物性食品とりわけ肉類の消費がどんどん伸びた時代でもあります。日本人持ち前の勤勉さに加えて、エネルギー源である食糧も増産され、よく食べてよく働く時代でした。そしてこの時期の経済戦士の活動エネルギーを支えたのは、何といっても、食生活の向上にほかなりません。いや、経済成長によって食生活が向上したのかもしれません。いずれにしても、このミラクルの達成には栄養状態の改善が深くかかわっていることはほぼ間違いありません。しかしながら、こちらのミラクルの方は喜んでばかりいるわけにはいきません。というのは、高度経済成長期のピークを契機として、新たな問題が起こってきたからです。

あの戦後の飢餓時代を脱したまではよかったのですが、食糧の量も質も豊富になるにつれて、もはや栄養の不足状態はなく、むしろ栄養の過剰状態が問題となり始めたからです。栄養の取り過ぎで、肥満や高血圧などのいわゆる成人病が増加し始めました。そして高度経済成長時代のツケとして、「飽食時代」というありがたくない時代名まで生まれました。

不況の時代の食生活

さて、話を現在の日本に戻すことにしましょう。残念ながら、今の日本は不況のどん底にあります。不景気のため、国民の消費が落ち込み、モノがあり余っているのに売れません。当然ながら、家計のしわ寄せが食費の方にまで及んでくることになります。だからといって、食べ物を減らすわけにはいきません。しかし、かつての飽食時代のようなわけにはいかないでしょう。限られた食費の中で、健康を維持するために、如何にして満足な食生活を営むかが問われる時代となりました。と同時に、職場や環境のストレスの多い現代社会を乗り切るためにも、サラリーマンの食事内容が果たしてこれでいいのか、栄養状態を改めて問い直してみるチャンスでもあります。
今や人生80年時代を迎え、人間だれしも充実した人生を送り、快適な老後を望まない者はいないと思います。しかし、栄養の問題は、今のあなたのライフステージに合わせなければなりません。

(1998年8月)

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