食生活と肌の加齢現象

ここでいう美肌とは、お化粧をして美しくつくられた皮膚ではなく、持って生まれた素肌の美のことです。若い頃はだれしも化粧品を使わなくても美肌を呈していますが、年をとるにつれて肌のトラブルや衰えを感ずるようになります。これは人間の宿命的な加齢現象の一つで、だれしも避けられないものです。皮膚の生理的老化は、成長期が過ぎれば始まると考えられています。しかし、その進み方は年齢とは必ずしも関係なく、早くふける人もいれば、いつまでも若々しい肌の人もいます。それはその人の生まれつきの肌質のほか、生活環境の要因によっても影響されるからです。例えば、日光(紫外線)、風雨、寒冷、大気汚染、食生活、職業、ストレスなどです。
今回はこれらの要因のうち、とくに食生活をとり上げ、皮膚の健康と栄養の問題について述べてみたいと思います。

皮膚の組織と新陳代謝

まず、皮膚は、新陳代謝が盛んなたえず生まれ変わっています。皮膚は一番上から順に、表皮、真皮、皮下組織の3つの層からできています。皮膚の厚みとは、通常表皮と真皮とを合わせて平均1.4mmです。一番下の皮下組織には、皮下脂肪が貯えられていて栄養状態により厚みが異なります。表皮をさらに詳しく見ると、表面から下方に向かって4~5層に分かれていて、それぞれの層に細胞がぎっしり詰まっています。そして一番下の基底層では、たえず新しい細胞がつくられています。この細胞は角化細胞として分化しながら、次々とつくられる新しい細胞に押し上げられるように表面に向かって順に上の層に移動していき、最後に一番上の角層の表面から、角片(アカやフケ)としてはがれ落ちていきます。この間の再生サイクルは28日です。

角層(表皮の外界と接する最上層)にある細胞は角質細胞といって、既に死んだ状態の細胞です。それらがレンガ層のように何層にもぎっしり積み重なっており、つなぎ目地にはセラミドという保水性のある脂質が用いられています。 つまり、表皮の最下層で生まれた細胞は角化細胞となって上層に上がっていき、最後は角質細胞となって一生(28日)を終わるわけです。この過程を角化と呼んでいます。この角化が順調に進行することは皮膚の健康にとって実に大切なことなのです。角化がうまく行われていない皮膚では、角層が厚くなり過ぎたり(角化症)、角片がはがれ落ちるのがひんぱんになったりします。

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正常な角化に必要な栄養素とビタミン

角質細胞には、爪や髪の毛と同じく、硬タンパク質の一種で、シスチンという硫黄を含むアミノ酸から成るケラチンというタンパク質が沈着しています。したがって、角層は皮膚を外界から守る大事なバリアーとしての役割を果たしているわけです。
角化が順調に行われているためには、基底層の細胞に対する十分な栄養補給が欠かせません。とくにケラチンの生成粗材となる含硫アミノ酸を多く含んだタンパク質をとらなければなりません。それには植物性タンパク質だけでは不十分で、動物性タンパク質もとる必要があります。

また、ビタミンAは角化を正常にするために必要なビタミンで、不足すると角化症になったり、角層の保湿能が低下したりします。角層の細胞間脂質のセラミドは、皮膚が乾燥してかさかさになるのを防ぐ役割を果たしています。セラミドを構成するリン脂質中には、リノール酸やリノレン酸などの必須脂肪酸が含まれており、これらは獣肉脂肪により魚油や植物油に多く含まれています。したがって、脂質を食品からとる場合、動物性脂肪、植物性油脂、魚油の3者を4:5:1の割にとるのがよいとされています。

真皮について見てみますと、表皮の約10倍の厚みがあり、皮膚の本体ともいえる部位です。真皮には、硬タンパク質の一種のコラーゲンから成る膠原線維と、同じく硬タンパク質の一種のエラスチンから成る弾力線維とがあり、前者は真皮組織の形態を保ち、後者はゴムのような弾力があって皮膚に弾力性を与えています。また、これらの線維の間を埋める物質としてムコ(粘質)多糖類が存在し、水分をたっぷり含むので、皮膚に張りのある水々しさを与えています。

皮膚の構造

重要な役割のコラーゲン

コラーゲンは、成人の場合で体内全タンパク質の約30%を占める硬タンパク質で、皮膚のほか、腱、軟骨、骨、歯、血管などの結合組織を構成しています。ビタミンCの摂取量が少ないと、コラーゲンの生成量が減り、その結果皮膚のトラブルが起きやすくなったり、毛細血管がもろくなって出血しやすくなります。ビタミンCのほか、ミネラルの亜鉛もコラーゲンの合成にかかわっているとされています。

亜鉛は魚介類に多く含まれており、とくにカキに多い元素です。コラーゲンやゼラチン(コラーゲンを加熱してつくる)入りの食品を食べたからといって、そのまま真皮に蓄積することはありません。

コラーゲンを含めてすべてのタンパク質は、消化器管で分解されてアミノ酸となり、小腸で吸収されたのち、あらためてコラーゲンに再合成されるからです。軟骨を食べると、その粗材は確かに増えますが、果たしてムコ多糖類が増加するか確かな証拠はありません。皮下組織は、その大部分が脂肪細胞であり、クッションのような働きをしています。脂肪は熱の伝わり方が小さいので、皮膚の保湿効果を助けています。本来は、余分なカロリーを皮下脂肪として貯蔵する部位であり、したがって栄養状態のバロメータとなる部位でもあります。

年齢やライフスタイルに見合ったカロリー摂取を

実際の食事のとり方についてとなると、とくに皮膚に効く食べ物があるというわけではありません。皮膚はいつも過酷な外界にさらされているばかりではなく、内部ではたえず新陳代謝をくり返して新しく生まれ変わっています。そこで、食事の基本は、年齢やライフスタイルに見合ったカロリー(エネルギー所要量)を補うのに十分な主食をとることです。その上副食として、肉類、魚介類、野菜類、果物などをバランスよくとることです。偏食は禁物です。肌によいからといって、野菜や果物だけを多く食べる若い女性がおりますが、カロリー不足をまぬがれません。

そして摂取する食品の種類は、できるだけバラエティに富むよう(1日30食品が目標)配慮することによって、栄養素のバランスも自然によくなり、また不足しがちなミネラルやビタミンも補うことができます。

最後に、皮膚に関係の深いビタミン類を表にまとめてみました。

美肌に必要なビタミン

ビタミン
皮膚に対する生理作用
欠乏状態
高含量食品
ビタミンA 角化を順調にする
肌荒れを防止
毛孔角化、皮膚乾燥、にきび ウナギ、銀だら、レバー、牛乳、卵黄など
ビタミンB2 皮膚の新陳代謝を活性にする
皮膚の血液循環をよくする
皮膚の発育促進
脂漏性皮膚炎、口角炎 、口唇炎、口内炎 ヤツメウナギ、レバー、のり、うずら卵、牛乳、強化米など
ビタミンB6 皮膚の新陳代謝を活性にする
皮膚のかさつき防止
皮膚の抵抗力強化
脂漏性皮膚炎、口角炎、口唇炎 レバー、肉、魚、豆、卵黄など
ナイアシン 皮膚の血液循環をよくする
皮膚の衰え防止
ペラグラ、口舌炎 レバー、肉、魚、豆、緑黄色野菜、落花生など
ビタミンC コラーゲンの生成
メラニン色素の沈着防止
皮膚の血液壁強化
しみ・そばかす、皮下出血(壊血病) ブロッコリー、ピーマン、いちご、甘柿など
ビタミンE 皮膚の血液循環をよくする
過酸化脂質の生成抑制
しもやけ、未熟児で皮膚乾燥 たらこ、すじこ、アーモンド、小麦胚芽、せん茶など
(1998年9月)
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