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第6次改定「日本人の栄養所要量-食事摂取基準-」が本年度(平成12年4月)から実施されています。わが国の栄養所要量は、1969年に策定されて以来、国民の本位や食生活の変化に合わせて5年ごとに改定されてきました。本シリーズでこれまで取り上げた栄養所要量は、第5次改定によるもので、平成7年度から同11年度まで使用されてきました。そこで、今回、平成12年度から同16年度までの5年間に使用される第6次改定「日本人の栄養所要量」(参照:健康・栄養情報研究会編、第一出版)について簡単に説明することとします。

改定の概要

これまでの栄養所要量は、栄養不足を解消して、健康の維持・予防を目的として策定されていましたが、今回策定された第6次改定では、飽食の時代に対応して、栄養のとり過ぎ、あるいは生活習慣病の予防に主眼が置かれています。そのため、これまでの集団を対象にした栄養所要量とは別に、個人を対象にした「食事摂取基準」の考え方が取り入れられています。この食事摂取基準は、現在アメリカを中心に欧米諸国で実施されているのもので、栄養欠乏症や過剰症のいずれにも陥らず、健康を維持・増進するための個人個人の栄養摂取量を決める際の指標となっています。

食事摂取基準を決める際には、まず栄養欠乏症を予防する観点から、特定の年齢層や性別集団について、栄養素の必要量を測定し、その集団における50%の人が必要量を満たすと推定される日の摂取量を「平均必要量」とします。そしてこの集団のほとんどの人(97~98%)が1日の必要量を満たすのに十分な摂取量を「栄養所要量」=「平均必要量」とします。原則として、「栄養所要量」=「平均必要量」+標準偏差の2倍(2SD)で表すのです。平均必要量が得られない場合は、特定の集団においてある一定の栄養状態を維持するのに十分な摂取量を栄養所要量として用いることにします。次に、栄養の過剰摂取による健康障害を予防する観点から、特定の集団においてほとんどすべての人に健康上悪影響を及ぼす危険のない栄養摂取量の最大限の量を「許容上限摂取量」とします。

この「平均必要量」「栄養所要量」「許容上限摂取量」の3点セットの数値を総称して「食事摂取基準」と言います。これらの関係は、次のようになります。

摂取量
A:平均必要量
B:栄養所要量
(平均必要量が算定されている場合)
B':栄養所要量
(平均必要量が算定されていない場合)
C:許容上限摂取量

この図において栄養所要量と許容上限摂取量との間の摂取量幅(B-D)は、栄養素摂取のための摂取安全域とされています。この範囲において個人の栄養状態を評価、判定し、それぞれに見合った栄養補給を行うことになります。
栄養所要量の算定には、あらかじめ日本人の平均的な体位を算出しておく必要があります。これまで栄養所要量では、日本人の平均的な体位を、所要量使用の最終年度の推計値を用いて算出していました。例えば、第五次改定では、2000(平成12)年の日本人の性別、年齢別の身長及び体重の推計値を算出し、それに基づいて所要量を算定しています。最終年の体位を採用する理由は、栄養所要量が主に栄養欠乏症の予防の観点から策定されているためなのです。ところが、最近の国民栄養調査のデータによりますと、中年男性の肥満度の増加が認められることなどから、5年後の推計値ではなく、現在得られる最新のデータを基に体位基準値を設定する必要に迫られました。

(表1)年齢区分別 体位基準値(厚生労働省)
年 齢
身 長(cm)
男/女
体 重(kg)
男/女
0~(月) 61.7 6.4
6~(月) 70.7 8.5
1~2 83.6 11.5
3~5 102.3 16.4
6~ 8 121.9 120.8 24.6 23.9
9~11 139.0 138.4 34.6 33.8
12~14 158.3 153.4 47.9 45.3
15~17 169.3 157.8 59.8 51.4
18~29 171.3 158.1 64.7 51.2
30~49 169.1 156.0 67.0 54.2
50~69 163.9 151.4 62.5 53.8
70以上 159.4 145.6 56.7 48.7

第6次改定栄養所要量の項目は、エネルギーと糖質ならびに食物繊維、脂質、たんぱく質などの三大栄養成分、ならびにビタミン類(A.D.E.K.C.B1.B2.ナイアシン.B6.葉酸.B12.ビオチン、パントテン酸の13項目)、及びミネラル類(カルシウム、鉄、ヨウ素、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレン、食塩、クロム、モリブデンの13項目)です。
これまでの栄養所要量では、三大栄養素のほか、ビタミン類7項目、ミネラル類6項目で、国際的レベルに達しないものでしたが、今回の改定で大幅な項目の増加が見られました。しかも微量栄養成分については、許容上限摂取量が新しくしるされています。
普通の食事をしている分には上限値を超えることはあまりないと思われるますが、最近、ビタミン類やミネラル類の栄養補助食品の普及で、これらのとり過ぎが心配されるためです。

第6次改定栄養所要量の内容

平成12年4月から平成17年4月まで使用される第6次改定「日本人の栄養所要量」(食事摂取基準)は、厚生労働省ホームページをご覧下さい。
(以下で使用する表はすべて厚生労働省ホームページからの引用です)

1.エネルギー所要量

まずエネルギー所要量については、(表2)に示すように、生活活動強度別となっています。生活活動強度別の判定には、参考表を見ますと、I(低い)、II(やや低い)、III(適度)、IV(高い)の4段階に分けられており、各段階の日常生活活動の動作やその時間、並びに具体的内容が提示されています。国民の大多数はII(やや低い)に当てはまりますが、I(低い)を含めてその日常生活活動の内容を変えるかまたは運動を付加することによってIII(適度)に相当するエネルギーを消費することが望ましいとされています。また、生活動作の「立つ」「歩く」等は、必ずしも立つ歩くのみを指すのではなく、これと同等の生活動作を含む概念です。

例えば、「立つ」には、料理、食事、身じたくから車の運転や机上事務などが含まれ、「歩く」には、電車やバスの乗り物の中で立つことや洗濯、掃除まで含まれています。また、「時間」は1時間単位としているので、20~30分前後のものは「0」としての表示になってしまいますが、例えばIII(適度)での筋運動は全く行わないということではありません。
今日の日本においては、栄養素欠乏症の問題はなく、代わって摂取過剰による非感染性慢性疾患の問題が重要になっています。エネルギー不足になりやすい人、エネルギー過剰になっている人、またはエネルギーバランスの崩れている人などさまざまです。これらの人々に対して生活習慣を予防する上で、適切なエネルギー摂取量を明示する必要があります。そのために、個人個人におけるエネルギー必要量を求めなければなりません。
したがって、1日当たりのエネルギー所要量は、次式に示すように、基礎代謝量に対する生活活動強度指数(1日の生活活動強度の荷重平均)で示してあります。
[エネルギーの所要量=1日の基礎代謝量X生活強度指数]

(表2)に示す値は、上記の式をもとに、さらに16歳までの成長期における体重増加のためのエネルギー消費量を付加して算出してあります。

(表2)生活活動強度別 エネルギー所要量(kcal/日)
年 齢
(歳)
生 活 活 動 強 度
I (低い) II(やや低い) III (適度) IV (高い)
0~(月) 110~120kcal/kg
6~(月) 100kcal/kg
1~2 1,050 1,050 1,200 1,200
3~5 1,350 1,300 1,550 1,500
6~8 1,650 1,500 1,900 1,700
9~11 1,950 1,750 2,250 2,050
12~14 2,200 2,000 2,550 2,300
15~17 2,100 1,700 2,400 1,950 2,750 2,200 3,050 2,500
18~29 2,000 1,550 2,300 1,800 2,650 2,050 2,950 2,300
30~49 1,950 1,500 2,250 1,750 2,550 2,000 2,850 2,200
50~69 1,750 1,450 2,000 1,650 2,300 1,900 2,550 2,100
70以上 1,600 1,300 1,850 1,500 2,050 1,700
妊婦 +350 kcal
授乳婦 +600 kcal
  1. 生活活動強度の判定については、参考表「生活活動強度の区分(目安)」を参照。
  2. 生活活動強度が「I(低い)」または「II(やや低い)」に該当する者は、日常生活活動の内容を変えるかまたは運動を付加することによって、生活活動強度「III(適度)」に相当するエネルギー量を消費することが望ましい。
  3. 食物繊維の摂取量は成人で20~25g(10g/1,000kcal)とすることが望ましい。
  4. 糖質の摂取量は総エネルギー比の少なくとも50%以上であることが望ましい。
(参考表)生活活動強度の区分
生活活動強度II(やや低い)は、現在国民の大部分が該当するものである。生活活動強度III (適度)は、国民が健康人として望ましいエネルギー消費をして、活発な生活行動をしている場合であり、国民の望ましい目標とするものである。
生活活動強度
と指数(基礎
代謝量の倍数)
日常生活活動の例 日常生活の内容
生活動作
時 間
I
(低い)
1.3
安 静 12 散歩、買物など比較的ゆっくりした1時間程度の歩行のほか大部分は座位での読書、勉強、談話、また座位や横になってのテレビ、音楽鑑賞などをしている場合。
立 つ 11
歩 く
速 歩
筋運動
II
(やや低い)
1.5
安 静 10 通勤、仕事などで2時間程度の歩行や乗車接客、家事等立位での業務が比較的多いほか大部分は座位での事務、談話などをしている場合。
立 つ
歩 く
速 歩
筋運動
III
(適 度)
1.7
安 静 生活活動強度II(やや低い)の者が1日1時間程度は速歩やサイクリングなど比較的強い身体活動を行っている場合や、大部分は立位での作業であるが1時間程度は農作業、漁業などの比較的強い作業に従事している場合。
立 つ
歩 く
速 歩
筋運動
IV
(高い)
1.9
安 静 1日のうち1時間程度は激しいトレーニングや木材の運搬、農繁期の農耕作業などのような強い作業に従事している場合。
立 つ
歩 く
速 歩
筋運動

2.脂質所要量

脂質所要量は、(表3)に示すように、総エネルギー摂取量に対する比率として表してあります。脂肪エネルギー比率の増加に伴って、動脈硬化性心疾患、乳癌、大腸癌などの発生が増加することから、日本人成人にとって望ましい摂取量は20~25%とされています。

脂質中には動物、植物、魚類によってそれぞれ異なった脂肪酸が含まれていますので、これらをバランスよく取ることが大切です。飽和脂肪酸(獣鳥肉に多い)、一価不飽和脂肪酸(オリーブ油に多い)、多価不飽和脂肪酸(植物油や魚脂に多い)等の摂取割合は、3:4:3を目安にするのが望ましいとされています。

一方、多価不飽和脂肪酸にはn-6系(ひまわり油や紅花油に多いリノール酸が属する)とn-3系(シソ油やエゴマ油に多いα-リノレン酸、魚油に多いEPAやDHAなどが属する)があります。これらは必須脂肪酸で、発育成長および健康維持に欠かせませんが、過剰摂取にならずバランスよく取ることが大切です。健康人では、n-6系とn-3系との比を4:1程度を目安としています。

(表3)脂質所要量
年 齢(歳) 脂肪エネルギー比率(%)
0~(月) 45
6~(月) 30~40
1~17 25~30
18~69 20~25
70以上 20~25
妊婦、授乳婦 20~30

1.飽和脂肪酸(S),一価不飽和脂肪酸(M),多価不飽和脂肪酸(P)の望ましい摂取割合はおおむね3:4:3を目安とする。
2.n-6系多価不飽和脂肪酸とn-3系多価不飽和脂肪酸の比は、健康人では4:1程度を目安とする。

3.たんぱく質所要量

たんぱく質所要量は、(表4)に示すとおりです。たんぱく質所要量を体重1kg当たりに換算しますと、0歳児が最も高く(2.7g/kg)、年齢を経るにつれて漸減し成人では1.0g/kgとなります。しかし、高齢者(70歳以上)では、成人より若干多く1.13g/kgとなります。したがって、高齢者はたんぱく質不足に陥らないよう注意する必要があります。

(表4)たんぱく質所要量 (g/日)
年 齢(歳)
0~(月) 2.6/kg
6~(月) 2.7/kg
1~2 35
3~5 45
6~8 60 55
9~11 75 65
12~14 85 70
15~17 80 65
18~29 70 55
30~49 70 55
50~69 65 55
70以上 65 55
妊婦 +10g
授乳婦 +20g

4.ビタミン類所要量

ビタミン類の所要量は、(表5)に示すとおりです。単にビタミン欠乏症を予防するのに役立つばかりでなく、最近の研究によりますと、生体内抗酸化作用や細胞間情報伝達作用など栄養素以外の機能をもつものもあることが判明しました。したがって、ビタミンには健康を維持・増進させ、多くの疾病の予防に役立つと考えられています。第6次改定において、ビタミンの種類は従来の7項目から13項目と大幅に増え、さらに過剰摂取の害を防ぐための許容上限摂取量が設定されております。許容上限摂取量とは、毎日継続的に摂取した場合、有害な副作用をもたらす危険度の無いとみなされる1日当たりの最大摂取量のことです。ただし、有害な副作用に関するデータが不十分な場合には設定されておりません。

5.無機質(ミネラル)の所要量

無機質(ミネラル)の所要量は、(表6)に示すとおりです。今回の改定において、ミネラルの種類も従来の6項目から13項目と増え、人体にとって必要なミネラルのほとんどを構成しています。ミネラルの摂取については欠乏や過剰のほか、ミネラルバランスや他の栄養成分の影響に注意することが大切です。過剰摂取を防止するため、すべてのミネラルについて許容上限摂取量が設定されています。

(2000年6月)
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