27.かごそう(夏枯草・ウツボ草・イシャダオシ)—またの名を医者倒し—

革製の筒状の矢入れ=靫(うつぼ)によく似る

日本全域、アジアに広く分布するシソ科の多年草。日当たりのよい林野や道端によく自生しています。初夏に咲いた紫色の花が、真夏にまだ葉が青々としているときに、急に褐色に枯れたようになるので、夏に枯れる草。
この褐色の花穂は、武士が矢を入れていた、革製の筒状の矢入れ=靫(うつぼ)に色も形もよく似ているので、別名ウツボ草。

猿回しの猿を見かけた大名が、その猿の皮で自分の矢のケース=靫を作りたくなり、その猿を殺すと言い張ります。猿回しの命乞いも通じません。諦めた猿回しがこの猿の今生の名残りにと猿に舞いの芸をさせます。猿が殺される事情も知らずに無邪気に舞うのを見て、横暴な大名にも憐憫の情がおこり、猿回しと猿は無事に災難を逃れました。これが謡曲や長唄で有名な「靫猿」(うつぼざる)です。

この花穂が漢方薬として、さまざまな熱症状を冷ます=清ます、つまり清熱剤に分類され、血圧を下げたり、リンパ腺や甲状腺などの瘰癧に使われます。民間的には花穂の色が変わりかけた頃に採取して乾燥して煎じ、浮腫に効く利尿剤として用いられてきました。口内炎や喉の腫れには、この煎じ液でうがいをします。
昔の子供達は路傍に咲くこの花の蜜を吸って「スイナスイナ」と呼んだそうです。暑気払いには葉をお茶として飲みます。

同じシソ科で、キランソウは葉に白毛が目立つので、名前もよく似た白毛夏枯草。ジゴクノカマノフタ=地獄の釜の蓋というすごい別名があります。病人が行きそうな地獄に蓋をして現世に連れ戻す、ということらしいですが。またの名をイシャダオシ=医者倒し。切り傷によく効く民間薬で、全草を絞って汁を傷にすりつければ、医者を呼ばなくても傷は治ってしまうという意味。中国でも金瘡小草と呼ばれます。金瘡とは包丁や刀による傷のことです。
これらのシソ科の薬草は、ヨーロッパでは"セルフヒール"と呼ばれるハーブです。セルフ=自ら、ヒール=治癒、つまり自然治癒ですから、これも医者倒しと同じ意味ですね。

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