28.カノコソウ(吉草根・バレリアン)—婦人の保健薬などに—

強烈な香り

カノコソウは、少し湿った山地に自生する多年草で、根元から匐枝(ふくし)を出して繁殖する。幕末の『草木図説』では、「カノコソウ一名ハルオミナエシ。伊吹山中多く自生す」という記述があり、今でも、伊吹山の山頂から岐阜県側に下る付近には多くのカノコソウが自生しています。

同属のオミナエシやオトコエシとそっくりの散房状の小花が多数密着して咲きますが、それらと較べて花期が早いので一名・春オミナエシ。 オミナエシ属は古代からクスリとして利用され、中国の『神農本草経』には「敗醤根」とあります。「敗醤」とは醤油または納豆の腐った臭いがするという意味です。漢方薬としてはこの「敗醤根」が有名で「腸癰の要薬」とされ、腸の炎症・化膿、例えば虫垂炎などに用いる処方に入れられます。

古代ローマの『薬物誌』にはオミナエシ属の乾燥した生薬を「PHOU」と呼び、これも特有なへんな臭いがするという語源からきています。洋の東西を問わず、強烈な香りのある植物が薬として利用されるわけです。
西洋カノコソウは万能薬として使われていたようですが、鎮静薬、緩和薬、特にヒステリーや癲癇で、正気を失っている患者に嗅がせる気付け薬をとして有名でした。
英名はバレリアンで、ストレスが取り除かれて精神が安定して楽になるということで、名前の由来は「ラテン語」の「バレーレ」=「良くなる」という意味に由来するとのことです。

このバレリアンが、幕末の蘭学導入のときに知られ、冒頭に書いたように、それを日本に自生しているカノコソウにあてたのです。西洋カノコソウとは、そのとき逆にバレリアンに付けた名前とわかります。日本産のカノコソウの方が精油を多く含み、生薬としては品質がよいとされています。そののち栽培もされ、現在は北海道で栽培されています。

カノコソウは、秋になって地上部が枯れて黄色くなったら掘り取って、根茎(このもじゃもじゃした根が蜘蛛のようなので、中国では蜘蛛の香り)をよく水洗いしてから天日で乾燥させます。これが生薬の吉草根です。特有のくせのある芳香はイソキッソウ酸やボルネオールエステルを主成分とした精油成分。菓子や煙草の香料に使われ、婦人の保健薬などに配合されます。ちなみに、このくせのある芳香をよい香りと感じる場合には、ヒステリー気味の場合だそうですよ。

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